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雷が反粒子をつくりだす (Enoto et al. 2017)

新潟県柏崎市に設置した検出器が、2017年2月6日 17時34分06秒(日本時間)に起きた雷放電の直後に、多数のガンマ線を検出しました。 得られたデータを解析したところ、このイベントで検出された信号は、

  1. 雷放電の瞬間から数ミリ秒以内に発生した大強度のガンマ線フラッシュ (光核反応を引き起こす種光子)
  2. 雷放電直後に放射が始まり、1秒程度かけて弱まっていったガンマ線 (中性子捕獲原子の脱励起による即発ガンマ線)
  3. 雷放電の30秒後から約50秒間にわたって観測された特徴的なエネルギーのガンマ線 (電子陽電子対消滅ガンマ線)

という3つの成分から構成されていたことがわかりました。

これらの3つの成分のガンマ線のエネルギー分布・到来時間を、原子核反応によって生じるガンマ線のエネルギーと比較したり、計算機シミュレーションと比較したりした結果、今回のイベントでは「雷放電で加速された電子がガンマ線を放出し、そのガンマ線が大気中の窒素や酸素の原子核と衝突して、原子核から中性子をはじき出す現象」が起きていたことがわかりました。この現象は専門用語で光核反応(光による核変換)と呼ばれます。

光核反応は、粒子加速器の内部や宇宙空間では起きることが知られています。今回の研究結果は、雷によってそれが引き起こされていることを世界ではじめて観測的に示しました。とくに、のように、光核反応によって大気中の窒素原子から中性子がはじき出される場合、あとに残される不安定な窒素の放射性同位体からは、電子の反粒子である陽電子が放出されることが原子核物理学の研究からわかっています。今回のイベントでは、そのような放射性同位体が風に乗って私たちの検出器の上空を通過していったと考えられます。その途中で放出された陽電子は、大気中の電子と衝突して消滅するさいに「電子・陽電子対消滅ガンマ線」という、決まったエネルギー(0.511 メガ電子ボルト)をもつガンマ線を2つ放出します(上記のリストの3番目の要素)。私たちの検出器はこの「電子・陽電子対消滅ガンマ線」の存在も、はっきりととらえていました。これにより、雷雲や雷放電は、自然界の加速器であるとともに、反粒子の生成装置でもあることが明らかになったのです。

私たちは2017年3月から観測データの詳細解析と論文執筆を進め、2017年7月にNature誌に投稿しました。2名のレフェリーによる査読と改訂をへて、9月にLetter論文として受理され、11月に出版されました。広範な読者を対象とした論文雑誌に掲載されることが決まったことは、この研究成果が雷雲や雷放電の研究者だけでなく、より広い研究領域に対してインパクトをもつことが認められたのだと考えています。 今回の論文で発表した成果については、京都大学などからプレスリリースを出しています。プレスリリース資料では、観測された物理現象や生成される窒素や炭素の同位体の重要性について、さらに詳しく解説しているので、ぜひ参照してください。

なお本研究成果は、英国物理学会 Institute of Physicsの会員誌「Physics World」の"Top Ten Breakthrough of the Year (2017)"のひとつとして選出されました。

図. 雷からのガンマ線で引き起こされる光核反応と、それに続く一連の物理現象のまとめ。図中のグラフは、電子・陽電子対消滅ガンマ線のカウント数の時系列データ(実際に観測されたデータ)。

論文の情報

T. Enoto, Y. Wada, Y. Furuta, K. Nakazawa, T. Yuasa, K. Okuda, K. Makishima, M. Sato, Y. Sato, T. Nakano, D. Umemoto & H. Tsuchiya,
"Photonuclear Reactions Triggered by Lightning Discharge" (訳: 雷放電によって引き起こされる光核反応),
Nature 551, 481–484 (23 November 2017) doi:10.1038/nature24630

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メディアでの報道