図1. 雷雲内で電子が加速され、ガンマ線が放出される様子。
私たちにとって身近な現象である雷ですが、実は「何をきっかけに発生するのか」はまだ完全には解明されていません。雷が発生するには大気中に非常に強い電場が必要なのですが、実際の雷雲から観測される電場の強さが雷が発生するには弱すぎるのです。そこで仮説として、雷雲の中で高いエネルギーまで加速された電子やそれによるガンマ線が「きっかけ」を作るのではないか、とも言われています。しかし、これまでの研究では雷雲の観測をほぼ1地点からしか行っていなかったためにデータ量が乏しく、本当に加速された電子やガンマ線が雷発生のきっかけになっているのかの決定打に欠けていました。私たちは、この「雷発生のきっかけ」の謎の解明に、ガンマ線ビームの観測から挑戦します。
私たちの研究プロジェクトでは、雷雲での粒子加速事象を捉えるために、ガンマ線と高エネルギー電子を検出するための検出器システム(図2)を開発しました。 この検出器システムは、[1] ガンマ線や電子が入射するとかすかな光を発生する「シンチレータ」という特殊な結晶と、その光を電気信号に変換して増幅する光電子増倍管(Photo Multiplier Tube)、[2] 電気信号をデジタルデータとして記録するための電子回路モジュール、[3] 遠隔から検出器の状態を監視するためのモバイルWiFiルータから構成されています(図2パネルb参照)。 電子回路モジュールは、汎用のアナログ・デジタル変換ボード( GRWOTH FPGA/ADCボード)と、小型コンピュータ「Raspberry Pi」、独自設計の微小信号用アンプ・環境センサ・GPSを搭載した子基板からできています。 検出器全体は小型の防水ボックスに封入されています。防水コネクタを通じて外部から電源を供給することで、屋外でガンマ線の観測ができるようになっています。
検出器システムの詳細については、2017年12月のAmerican Geophysical Union (アメリカ地球物理学会)の講演会での発表スライドを参照してください。 また、Thundercloud Projectで開発したC++/Rubyのデータ取得ソフトウエアやFPGAファームウエアは、githubでオープンソースで公開しています。他の実験で自由に利用してください。
図2. 自分たちで製作したガンマ線・電子検出システム。[a] 防水ボックスに封入され、観測サイトに設置された様子。[b] 内部構成。[c] FPGA/ADCボード、アンプ子基板、Raspberry Piの電子回路スタック。
この検出器をもちいた観測は、冬季に雷雲が頻繁に発生することで有名な北陸地方で行っています。10月ごろから翌年の3月ごろまで、約半年間継続的に運転し、ガンマ線や電子の到来数やそれらのエネルギーを時々刻々計測します。 2016年度の観測キャンペーンでは、計10台の検出器を石川県金沢市(3台)、石川県小松市(2台)、石川県珠洲市(1台)、新潟県柏崎市(4台)に設置しました(図3)。検出器が増えたことにより、これまで半年の観測で1-2件程度だった雷雲ガンマ線放射イベントの観測例が、2016年度の半年間の観測だけで12件ものイベントをとらえることができました。
これらの中でもとくに、2017年2月に柏崎で捉えた強力なガンマ線放射イベントでは、雷が反粒子を生成しているという興味深い現象を解明することができました。この結果については「これまでに得られた結果」のセクションで詳しく説明します。
2015年度には、アカミッククラウドファンディングのプラットフォーム「academist」を通じてクラウドファンディングを実施しました。検出器のプロトタイプを開発して観測を開始するための研究費として、150名を超える方々から総額160万円を支援していただきました。アカデミッククラウドファンディングの詳細と、これまでの進捗報告は以下のプロジェクトページからご覧いただけます。
また、academist Journalでは、プロジェクトメンバーが執筆したコラムや、インタビュー記事が公開されています。あわせてご覧ください。
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